オリジナル「雪ん子と氷ん子」物語

冬将軍の季節になると、天上界から雪ん子(雪の精)と氷ん子(氷の精)がこの街に下りて来ていた。

街の大人たちは、かんじる(凍りつくほど寒い様子)冬の季節が来たと、「ハア!」とため息をつくかたわら、街の子供たちは冬の季節は待ちに待った天からの贈り物の雪で、雪の上を滑ったり雪合戦をしたり、雪だるまやかまくらを作ったりと、「ワイ!ワイ!キャー!キャー!」と声を出しながら、元気良く楽しそうに雪遊びをしていた。

雪ん子は天上界からこの街に下りて来て、街の子供たちが元気良く楽しそうに雪遊びをしている姿を見るのを、楽しみにしていた。

本当は、雪ん子も街の子供たちと一緒に雪遊びをしたかったが、冬の神様から「絶対に人に自分の姿を見せてはいけない。それを破ると二度と天上界からこの街に下りて来れなくなるからな。」という、厳しい掟を言い渡されていた。

その掟を守る為に、街の子供たちが雪遊びに来る前に、雪ん子は雪の精霊なので雪をいっぱい降らして、雪遊びがしやすいようにしておいた。

そして、街の子供たちが雪遊びに来ると雪ん子は木々に隠れながら、自分が降らした雪で元気良く楽しそうに雪遊びをしている、街の子供たちの様子を見ては楽しんでいた。

街の子供たちが帰ってしまうと、雪ん子は「街の子供たちと、一緒に遊びたかったなぁ。」とボソッとつぶやきながら、街の子供たちが雪遊びした場所に、たたずんでは寂しそうにしていた。

金比羅の神様は金鯰の頭の上に乗って街の行脚をしている時に、そんな健気な雪ん子を終始ご覧になっていたので、「お前が降らした雪で、街の子供たちは元気良く楽しそうに、雪遊びが出来て良かったのう。」と金比羅の神様が雪ん子に声を掛けて褒めていると、「ドスン!ドスン!」と音と共に、雪だるまが雪ん子に近付いて来た。

雪だるまは「雪ん子さんが降らした雪で、街の子供たちが私を作ってくれたんですよ。本当にありがとうございました。私と遊びましょう。」と声をかけて来た。

雪だるまは雪ん子と「おしくらまんじゅう 押されて泣くな♪」と歌いながら、おしくらまんじゅうをしたり、「はっけよい!残った!」と掛け声を掛けて相撲を取ったりして、雪だるまと雪ん子は、とても楽しく遊んでいた。

その一方で、高い木の上の方の枝に止まり木しながら、そんな様子をいまいましく見ている氷ん子がいた。

氷ん子は、『街の子供たちにしてやってみたところで、何の得にもならないのに無駄なことをしていやがる。金比羅の神様、雪ん子を褒めて面白くない。』とねたんだ思いと、雪だるまと雪ん子が楽しく遊んでいる様子に『うらやましいな。』と思う嫉妬する思いもあって、氷ん子は無性にそんな雪ん子の邪魔をしたくなってきた。

氷ん子は氷の精なので街全体を凍らせてしまい、さらに街の子供たちの心まで凍らせて、雪遊びの楽しさも凍りつかせてしまった。

当然街の子供たちは雪遊びに来なくなってしまった。

雪ん子は楽しみにしながら待っていても、ぱったりと街の子供たちが雪遊びに来なくなってしまったので、『街の子供たち雪遊びに来ないけど、何かあったんだろうか?どうしたのだろう?』と、心配しながら寂しさが募るばかりでいた。

すると、そんな雪ん子の前に突然氷ん子がやって来て、「待っていても、街の子供たちは雪遊びには来ないよ。」と言って来た。

雪ん子は「何で来ないんだ?」と聞くと、「俺が来ないようにしたのさ。」と氷ん子が薄笑いしながら言って来た。

怒った雪ん子が、「何で、そんなことをしやがるんだ。」と言って怒りをぶつけるように、雪玉を氷ん子にぶつけると、氷ん子は飛んできた雪玉をかわしてしまい、そして氷ん子は氷玉を雪ん子にぶつけ返してきた。

飛んできた氷玉は飛ぶ速さが早いので、雪ん子は氷玉をかわすことが出来ずに体に当たってしまい、当たった氷玉は堅いので体に当たった衝撃は凄まじく、雪ん子は仰向けに倒れてしまった。

倒れて起き上がれずにいる雪ん子に、氷ん子は「俺に勝てるわけがないのに、攻撃しやがって、ざまあみろ!」と、倒れている雪ん子を見下しながら、高笑いをして勝ち誇っていた。

そこに、「ドスン!ドスン!」と音と共に、雪だるまが氷ん子に近付いて来て、雪だるまは氷ん子に体当たりをして氷ん子を倒すと、倒れた氷ん子の体の上に雪だるまは覆いかぶさって、氷ん子が動けないようにしてしまった。

そこに、金比羅の神様が、金鯰の頭の上に乗ってやって来られた。

金比羅の神様は倒れている雪ん子に「かわいそうに、今元気にしてやるからな。」とおっしゃって、金比羅の神様は手を雪ん子の体に当てて癒し始めると、直ぐに雪ん子は何事もなかったように元気になって立ち上がった。

雪ん子が元気になったことを見届けると、今度は金比羅の神様は雪だるまの下で動けないでいる氷ん子に、「雪ん子に酷い事をして、お前の気持ちは晴れたか?」とおっしゃった。

さらに「今、雪だるまの下で動けなくなってしまっているのは、お前は自分の身勝手でした報いが招いた結果で自業自得じゃ、思い知ったじゃろ。」とおっしゃった。

続けざまに「お前本当は、雪ん子がうらやましくって、雪ん子に酷い事をしたんじゃろう!違うか?」と言うと、氷ん子は「ごめんなさい!ごめんなさい!許して下さい。」と言って大泣きを始めた。

金比羅の神様は雪ん子に「お前に酷い事をしたけど、謝っているので、ワシに免じて氷ん子を許してやってくれないか?」とたずねられた。

金比羅の神様に言われたので、雪ん子は許してやることにして、「わかりました。」と言うと、雪ん子は雪だるまに「氷ん子を自由にしてくれないか?」と頼んだ。

雪だるまは氷ん子を自由にしてやった。

自由になった氷ん子は雪ん子に「酷いことをして、ごめんなさい。許してくれて、本当にありがとうございました。」と言ってから、街の子供たちの心まで凍らせていた自縛を解き始めた。

すると直ぐに子供たちが何事もなかったように雪遊びにやって来た。

雪ん子と氷ん子は木々に隠れながら、街の子供たちの雪遊びを仲良く見ていたので、そんな雪ん子と氷ん子の様子をご覧になられながら、金比羅の神様は微笑んでいられていたとさ。

おしまい。

作者 ©鈴木孝夫 2019年 (許可なしに転載、複製することを禁じます)

この記事を書いた人

鈴木孝夫

金鯰物語の作者。塩川町出身、塩川町在住。発明家としての顔も持っている。