この物語は、むかしむかし落花生を花生(かせい)と呼んでいて、花生は大豆の様に枝に実をつけていたときのお話し。
はじまり、はじまり。
百姓を生業(なりわい)にしている次郎という若者がおって、花生を自分の畑にたんと植え育てて作っておった。
この次郎は花生の実を食べた人が「美味しい!」と言って、笑顔になってもらいたい強い願いを持って、花生を丹精愛情を込めて育てていた。
花生の苗木が雑草に埋もれて負けそうになると、次郎は「花生よ、今お天道様をいっぱい拝ましてやるから、育てよ!」と、声をかけながら雑草をむしり。
雨が降らず花生がグッタリとすると、次郎は「花生よ、水をいっぱいかけてやるから、元気になれよ!」と、声かけをしては花生にせっせと水をやり。
強風が吹いて、花生の苗木がなびいて折れそうになると、次郎は「花生よ、今根元に土をかけてやるから、強風に負けるなよ!」と、声かけをしては、強風で倒れそうになっている花生一本一本の根元に土かけをしてやり。
花生が花を咲かせると、次郎は「花生よ、綺麗な花だなぁ!実をつけてくれよ!」と、声をかけては、花生の花を愛おしそうに手で撫でやり。
花生が実をつけると、次郎は「花生よ、実をつけてくれてありがとう!」と、声をかけながら、花生に頭を下げていた。
そして、次郎は収穫した花生の実を金比羅神社に奉納して、感謝のお参りをしていた。
次郎が奉納してくれた花生の実を、金比羅の神様は食され、あまりの美味しさに微笑んでおられた。
ある日のことだか、一羽のカラスがどこからともなく飛んでやって来て、次郎の畑に舞い降りると、花生の実をついばんで食べた。
すると、花生の実のあまりの美味しさに、このカラスは「カア!カア!」と鳴きながら花生の実を次々と食べて、畑の花生の実をすべて食べ尽くしてしまった。
このカラスは美味しいものが食べたくって、諸国を巡ってきた卑しん坊のカラスだったので、次郎の育てた花生の実の美味しさに味をしめてしまい、次の年もその次の年も居座り続けては、秋に花生が実をつけると、花生の実をすべて食べ尽くしていたが、そんなことがあっても、次郎はめげずに花生を育て続けていた。
秋になり花生に実がなると、次郎は今年こそはそのカラスに花生に実を食べられてなるもんかと、花生の実を食べにきたカラスを、長い棒を振り回しては追い払っていた。
カラスを追い払っても、カラスはサアっと空へ飛んで行ってしまい、次郎をあざ笑うかのように、次郎の頭の上空を飛び回りながら、「カア!カア!」と鳴いていた。
そんなカラスに、次郎はなすすべも無くなり、ついには力尽き、次郎は畑にヘナヘナと座り込んでしまい、肩を落として落胆してしまった。
そんな様子をご覧になっておられた金比羅の神様は、金鯰の上に乗ってこのカラスのもとへ行った。
金比羅の神様は、このカラスに「カラスよ!次郎が育てた花生の実をワシも食してみたが、本当に美味しいから、お前が食べたくなるのもわからんでもないが、お前に花生の実をすべて食べ尽くされてしまい、落胆しておる次郎が不憫でならんのじゃ。
頼むから花生の実を食べないでくれないかのぉ?」とおおせになられた。
しかし、このカラスはあっかんべーをした上に、「カア!カア!」と鳴いて、金比羅の神様から飛んで逃げて言ってしまった。
カラスにものを言ってもダメだと諦めた金比羅の神様は、しばらくお考えになられていると、畑に座り込んで落胆している次郎のもとへ向かわれた。
金比羅の神様は白髭の老人の姿になって、畑に座り込んで落胆している次郎の前にお立ちになられた。
手の平で次郎の肩をポンポンと叩きながら、「ワシは金比羅の神じゃ! 毎年、花生の実を神社に奉納してくれて嬉しく思うておる。花生の実を食べてみたがとても美味で美味しかった。
あのカラスが花生の実を食べたがるのはわかるが、お前が丹精込めて育てた花生の実を、あのカラスに食べ尽くされているのが見ていて不憫でならんから、ワシの力で何とかしてしてやりたくて、来たのじゃ。」とおっしゃった。
金比羅の神様はカラスが食い残して畑に落ちていた花生の実を手で数粒拾い、念じられると、粒が光って輝いた。
そして、金比羅の神様は念じた数粒の花生の実を次郎に手渡して、次郎に「渡した数粒の花生の実は、花が咲くと地中に潜って実が育つようにしたから、あのカラスは花生の実は食べられなくなるだろう。
花を咲かすと地中に潜って実が育つから、落花生と呼ぶのが良かろう!また、落花生を神社に奉納してくれ、楽しみに待っておるからのぉ。」とおおせになり、次郎にニッコリと微笑まれると姿を消された。
そして次の年、次郎は金比羅の神様から頂いた数粒の落花生の種をまいたところ、金比羅の神様が言われた通り、花が咲くとスウッと地中に潜っていって実が育つようなった。
卑しん坊のカラスは実った落花生を食べられなくなったので、口惜しそうに「カア!カア!」と鳴いて飛んで行ってしまったとさ。
おしまい。
作者 ©鈴木孝夫 2021年 (許可なしに転載、複製することを禁じます)
※落花生が地中に潜る理由は、風や鳥、動物などの被害を考えるとリスクが少なく確実な繁殖手段であるからでしょう。 鳥や動物に食べられるリスクも減りますし、標高が高く雨量も少ない原産地の厳しい気象環境や土壌環境を考えると、地中の方が種子の生育環境も安定しています。
物語の舞台である塩川町の新名物「のれんちょ」の材料に落花生が使われており、落花生は、喜多方市塩川町の赤星地区内の農地で栽培しております。