オリジナル「金比羅の神様からいただいた堪忍袋」物語

「仏の顔も三度まで。」と言うことわざがあるが、それすらも超越してしまう、「便利屋」をなりわいにしている佐吉という名の若者が岩代の国塩川の街におった。

この佐吉は何があろうともいつもニコニコと笑っていて、他人様に騙されようが、嫌がらせをされても怒ったところを誰一人とて、一度も見たことがなかったので、「仏の佐吉」といつしか街の人たちはそう呼ぶようになっていた。

「プン、プン。」と怒っている人がいると、「あの万屋の佐吉を見習いなさい。」と引き合いに出されることもあった。

実は、この佐吉は岩代の国塩川の街に住み着く前は、諸国を渡りあってきた流れ者で、切った張ったは日常茶飯事の、手の付けられない荒くれ者のであった。

佐吉自身も、そんな生き方をしている自分自身が嫌だったので、まっとうな生き方をしなければいけないという、思いはあったのだが、切っ掛けが得られず、かえることが出来ないでいた。

そんな佐吉が、岩代の国塩川の街にやって来て、川沿いを歩いて進んで行くと、大きな廻来船が往来している川港に出た。

ふと川を見ると、川の中で金鯰(こんなまず)が仲間の鯰たちと仲良く楽しそうに泳いでいた。

佐吉は足を止めて、仲良く楽しそうに泳いでいる金鯰と仲間の鯰たちを眺めていて、『俺も、あの金鯰や仲間の鯰たちみたいに、仲良く楽しそうに出来たら良いだろうな?』と思った。

そして、また、川沿いを歩き始めると、金比羅神社が祀つられていたので、佐吉は金比羅神社に手を合わせたくなり、まっとうな生き方をしたいと心から祈願をした。

金比羅の神様は、佐吉の祈願をお受け取りになられて、白髭の老人に変化身され、祈願している佐吉の後ろに現れると、肩を「ポン、ポン。」と叩いた。

佐吉は突然、肩を「ポン、ポン。」と叩かれたものだから、身にしみている気性の荒さから、「俺の肩を気安く叩くんじゃねぇ!」と怒鳴りながら後ろを振り向いた。

そんな佐吉に、金比羅の神様は「今の今まで、まっとうな生き方をしたいと祈願をしておったではないか?」とたしなめられると、佐吉は「エヘヘ!やっちまった。」と言って、手で頭をかきながら分が悪そうにしていた。

そして、金比羅の神様は「まっとうな生き方をしたいという、お前の願いをワシが手助けをして叶えてやろう。」と言った。

金比羅の神様が、佐吉にそう言ったのには訳があった。

この頃、街のあちらこちらで、ちょっとした些細なことで、怒鳴り合う声を多く聞くようになっていた。

それを何とかせねばと金比羅の神様は考え始めていたところ、佐吉が現れ解決する特効薬になると思われたからだ。

白髭の老人に変化身された金比羅の神様だとわかっていない佐吉は、「手助けをして叶えてくれる・・・? ところで爺様はどなたさんですか?」と聞いてきた。

金比羅の神様は「お前が祈願をしておる、金比羅神社の神じゃ。」と言ったが、佐吉は「本当に神様?」と、半信半疑の様子だったので、金比羅の神様は「そうじゃ。」と言ながら、空中に浮かび始めた。

そして、金比羅の神様は少し浮かんでから、佐吉の前に降り立たれた。

佐吉は自分の前に降り立たれた金比羅の神様を見て、「金比羅の神様!」とおののき身震いをしながら言うと、金比羅の神様にひざまずき、懺悔するように今までの生き様を切々と語り始めた。

佐吉の話しを聞きながら、金比羅の神様は『切った張ったは日常茶飯事で、命まで張っての修羅を知っているこの者なので、性根はすわってはおるが、反面、性根から直さなければいけないようじゃが、まあ、この者は改心するだろう、楽しみじゃ。』と思われた。

金比羅の神様は佐吉を川岸に連れて行き、「ここにある石を、十個積み上げて積石を百基つくりなさい。」と言われた。

しかし、石は直ぐに崩れてしまって、思うように積み上げられずにいると、佐吉は「あー!やってられねぇ!」と泣き言を吐き始めた。

そのたびに、金比羅の神様は積み上げしてある積石を杖で崩していった。

それを見た佐吉は「てめえ!何をやってやがる。やめろ!馬鹿野郎!」と怒って切れたが、金比羅の神様は「弱音を吐いたり投げやりになったりすると、ワシは石積を容赦なく崩すからな!それを見て怒って切れたりしたらば、ダメじゃないか、お前はまっとうな生き方をしたいんだろう?」とたしなめられた。 

その後も、佐吉が上手く石を積み上げられず弱音を吐いたり、投げやりになったりすると、金比羅の神様は容赦なく石積してあるものを崩した。

時には金比羅の神様に、「鬼!ちくしょう!」と佐吉は暴言を吐くこともあったが、金比羅の神様はそんな佐吉に「お前は出来る。頑張ってやり遂げなさい。」 と叱咤激励を繰り返した。

そしてとうとう、佐吉は石積百基を作り上げる事が出来た。

石積百基を作り上げた佐吉に、金比羅の神様は「「良くやりおったのう。やれば出来るじゃないか。」と褒められた。

さらに「お前に石積みをさせた訳は、今まで、お前は道理【※物事の正しいすじみち。また、人として行うべき正しい道。】という石を蹴り上げるようなことをしてきた。

その蹴り上げてきた道理という石を積み重ねるのは難しく容易ではないということを、石積みを通して悟って欲しかったからじゃよ。

お前がまっとうな生き方が出来るように、次々といろいろなことをさせるからな。」と言われた。

そして次に、大きな水瓶がある場所に佐吉を連れて行き、金比羅の神様は、手桶を渡して「この水瓶に溢れるくらいに川の水を汲みなさい。」と言われて、佐吉は手桶で川の水を汲んで水瓶に入れ始めた。

川の水を汲んでいる時に、手桶の水が自分にかかってしまうがあると、佐吉は石積みの時と同様に「あー!ぬれちまった。やってられねぇ!」と吐くことがあった。

すると、金比羅の神様は水瓶の栓を抜いて、水瓶の中の水を流して空にしまった。

それを見た佐吉は、「てめえ!何をやってやがる。やめろ!馬鹿野郎!」と怒っていたが、金比羅の神様は「これをさせているのは、お前は今まで、たくさんの人を泣かしてきただろう、泣かしてきた人たちの流した涙が手桶に汲んでいる水じゃから、罪の償いの思いを持って水汲みをしないといけないのじゃ。」と言い聞かせた。

そして、金比羅の神様は繰り返し叱咤激励をされた結果、佐吉は手桶で川の水を水瓶に溢れるまで入れ終わることが出来た。

その後も金比羅の神様は、佐吉に次々といろいろなことをさせて、佐吉は改心することが出来た。

改心をした佐吉に、金比羅の神様は懐から巾着袋のような袋を取り出すと、「お前は改心を成し遂げたので、大丈夫だと思うが、今後もし、お前にとって、何か不本意なことや嫌なことにあって、怒りが込み上げてくことがあった時には、この袋を握りしめなさい。

すると、込み上げてきた怒りをこの袋が吸い取ってくれるから。この袋は“堪忍袋”というものじゃ、受け取るが良い。」と言って、佐吉にその袋を手渡した。    

そして、改心をした佐吉の姿に影響されて、街の人たちが変わっていって、笑顔が多くなったとさ。 

おしまい。

作者 ©鈴木孝夫 2021年 (許可なしに転載、複製することを禁じます)

この記事を書いた人

鈴木孝夫

金鯰物語の作者。塩川町出身、塩川町在住。発明家としての顔も持っている。