オリジナル「アマビエ様」物語

岩代の国の塩川というところがあった。

水運の宿駅として大きな廻来船が毎日往来し、繁栄している川港の中心地の街でにぎわっていた。

街に廻来船の船主が住んでおって、この船主には目に入れても痛くないほど激愛している幼子の一人娘がいた。

この娘は「キャー!キャー!」と走り回り活発でとても元気すぎるので、船主は娘が転んで怪我をしないかハラハラしながら「こらこら!あぶない!そう走るでない。」と声を掛けては、そんな娘を心配しながら船主は目を細めて見守っていた。

そんな元気だった娘が、急に元気がなくなり床にふせるようになり、船主は街の薬師(医師)に娘を診てもらったが原因が全くわからなかったので、今度は名高いと評判の薬師に娘を診てもらったが、やはり残念ながら原因がわからなかった。

そればかりか、名高いと評判の薬師から「煎じ薬は出しますが、効き目がなければ娘さんは、申し上げにくいのですが、お亡くなりになってしまうかもしれません。」と言われてしまった。

船主は希望を抱きながら煎じ薬を娘にのませてみたが、残念ながら一向に娘は回復しなかった。

船主は胸が張り裂けそうな思いで、床でふせて日に日に弱って行く娘を見て、船主は藁をもつかむ思いで金比羅神社に参拝をして祈祷をした。

金比羅の神様は、必死で娘の回復を願う船主の願いをお受け止めになられて、『船主の願いを叶えて、ワシが娘を癒すことは容易いが、そう言えば大国主神様(金比羅の神様からすると、上の神様で、金比羅の神様より神力がある神様)から、「どうもこの頃、どういう訳だか知らないが、拗ねているアマビエ(アマビエは豊作をもたらしたり、疫病の種を食べてしまう力を持っている)が天上界にいるので、そのアマビエの面倒を見て何とかしてくれなか?」と言われていたのを思い出された。

そのアマビエに娘の病の種を食べてもらおうとするか?』と思われ、そして金比羅の神様は金鯰の上に乗って天上界へ向かわられ、金比羅の神様が天上界に着きアマビエに会い行くと、アマビエは何やら楽しそうに踊りを踊っていた。

踊っているアマビエに「おい!おい!」と金比羅の神様が声を掛けると、アマビエは踊りをやめて「金比羅の神様、どうなさいましたか?」とアマビエが聞いてきた。

「おぬしに、是非ともやってもらいたいことがあるんじゃが?」と金比羅の神様が言うと、「何でしょうか?」とアマビエが答えたので、「実は、今、ワシの街に床でふせて日に日に弱って行く娘がおって、その娘の病の種をおぬしに食べてもらいたいんだが?」とアマビエに言った。

「私に、その娘の病の種を食べてくれと仰せですか・・・。」と、アマビエは何やら気乗りをしない様な返事をしてきたので、「頼む!やってくれないか?」と金比羅の神様がさらに強く言うと、「お受けしますので、一つお願い事があります。」とアマビエがお願いしてきた。

「そのお願い事とはなんじゃ?」と金比羅の神様が聞くと、「金比羅の神様は、街の人たちに拝まれていらしゃいますでしょう。それがとてもうらやましいんです。私のことも街の人たちに拝んでほしいのです。」とアマビエがそう言ってきた。

『そうか!こやつの拗ねていたのは、ワシら神々が人々に拝まれてるのをうらやんでおったのか。』と察しられて、「そうか、わかった!それじゃ、おぬしが娘の病を治したらば、娘の親の船主におぬしを拝むように進言してやろう。それで良いか?」と金比羅の神様が聞いた。

「はい!嬉しいです!承りました。」とアマビエが答えてくれたので、金比羅の神様は「それじゃ、参るぞよ。」と仰せになると、金比羅の神様は金鯰の上に乗り、アマビエは金鯰の尾っぽにしがみ付きながら、天上界から下界に向かい娘のもとへ向かった。

そして金比羅の神様とアマビエが娘の枕元に降り立った。

床でふせている娘のかたわらで娘を案じて見守っていた船主は、突然現れた金比羅の神様とアマビエにびっくりしていたので、「ワシは金比羅の神じゃ!お前の願いを叶えにやって来た。」と金比羅の神様が船主に言うと、金比羅の神様は「始めるが良い。」とアマビエに言った。

アマビエは床でふせている娘の周りを回り始め、アマビエが大きく口をパクパクと開け閉めしながら、何かを食べる様な踊りを始めた。

アマビエが踊りを終え、「金比羅の神様、娘の病の種を全て食べつくしました。」とアマビエが言うと、すると、直ぐに娘は何事もなかったように床からスックと立ち上がって、走り回り始め元気になってしまった。

その様子を唖然としながら見ていた船主だったが、元気になって走り回っている娘の様子を見て、船主は手を合わせて、深々と頭を下げながら金比羅の神様とアマビエにひざまずき、「娘をお助けして下さり、ありがとうございます。ありがとうございます。」と、泣きじゃくりながらお礼を言った。

金比羅の神様はそんな船主に、「娘が元気になって良かったのう。ワシと一緒におるこの者、アマビエが娘の病の種を食ってくれたのじゃ。そこでおぬしに一つ願いがある。このアマビエは豊作をもたらしたり、疫病の種を食べてしまう力をもっている者で、この者を拝むことをして欲しいんじゃが?」と言うと、「わかりました。」と船主は約束をした。

金比羅の神様は「宜しく頼むぞよ。」と告げ、金比羅の神様とアマビエは姿が消された。

金比羅の神様とアマビエが現れて、アマビエが娘の病の種を食ってお助けいただいた出来事と、アマビエは豊作をもたらしたり、疫病の種を食べてしまう力を持っているということを、船主は街の人々に話しをした。

その話が街の人々に広まり、「アマビエ様」と人々は拝むようになったとさ。おしまい。

作者 ©鈴木孝夫 2020年 (許可なしに転載、複製することを禁じます)

この記事を書いた人

鈴木孝夫

金鯰物語の作者。塩川町出身、塩川町在住。発明家としての顔も持っている。