オリジナル「神様っているのかな?」物語

金比羅神社の前で街の若者が数人集まっていた。

その中の一人が「おらっちの婆様が、『誰も見てなくても、神様は見てるから、悪いことしちゃダメだ。』って言っていたけど、神様っているのかな?」と言うと

もう一人の若者が「そう言えば、おらんとこの爺様も同じことを言っていた。」と続いた。

そこにいたもう一人の若者が「おらんとこの婆様も、『悪いことをすると、神様から罰が当たるから、してはならない。』って言ってたけど、神様っているのかな?ここの神社に神様いるのかな?」と言った。

そんな若者たちの話しを、聞き耳を立てて聞いていた金比羅神社の神様は、無性にこの若者たちと話しがしたくなった。

金比羅神社の神様は、白髭の老人に変化身され、その若者たちの前に現れると、若者たちに「神様どうのこうのって、今言っていたみたいだけど。」と訊ねた。

一人の若者が「神様っているのかな?って話しなんだけど、それじゃ聞くけど、爺様よ、神様いるのかよ? ここの神社には神様いるのかな?」との問い掛けた。

白髭の老人は『この若者たちに、「ワシは金比羅の神じゃ!」って言って、目の前で魔か不思議な事をすれば、この神社には神様がいるとわからすことはたやすいが、しばし禅問答でもしてみよう。』と思われて、白髭の老人と若者たちとの禅問答が始まった。

白髭の老人
「ワシは、神様はいると思うておる。じゃ、お前たちに聞くが神様はいないと思うておるか?」

若者
「見たことがないから、神様っていないんじゃないかな?」

白髭の老人
「見たことがないから、神様はいないか?そうだろうな!」

「そういえばさっき、“誰も見てなくても、神様は見てるから、悪いことしちゃダメだ。”とか、“悪いことをすると、神様から罰が当たるからしてはならない。”って言っていたようだけど、お前たち自身はこのことをどう考えておる?」

若者
「神様を使うのは、悪い事をしないようにするための、ただの戒めの方便じゃないの?」

白髭の老人
「神様が戒めの方便だとしても、世の中に悪い事しかしない人間ばかりだったらと、考えだけでも恐ろしく思わんかないか?ゾッとしないか?神様が戒めの方便でも有難いと考えられるだろう。神様が戒めの方便上等じゃないか?」

若者
「爺様、上手いこと言うな。」

白髭の老人
「“天に唾を吐く。”自分で蒔いた種は自分で刈り取らねばならない。”ということわざがあるが、簡単に例えたとしたらば、鏡に変な顔をすれば、変な顔に写り、鏡に笑った顔をすれば、笑った顔が写る様に、優しくしてもらったら、その人には優しく接するが、嫌な事をされたらば、その人には嫌な接し方をしたくなるはずだから、戒めの方便で神様から罰が当たるという解釈ができるだろう。」

若者
「それじゃ!さっき、爺様が神様はいると思うと言ったのは、何で?」

白髭の老人
「それじゃ、ワシがこれから言う事を、してみてくれないか?」

若者
「わかった。」

白髭の老人
「目をつぶってみなさい。どうなった?」

若者
「何も見えなくなった。」

白髭の老人
「耳をふさいでみなさい。どうなった?」

若者
「何も聞こえなくなった。」

白髭の老人
「目があるから見える・耳があるから聞こえる・当たり前のことの様だが、目や耳がなかったらば、見える・聞こえる・は、とらえられないから否定するはずだ。そう考えるととらえられない神様だけど、神様はいないとは否定はできなくなるだろう?」

若者
「ん?」

白髭の老人
「お前たち難しく考えず、目の前にこうして金比羅神社が鎮座されておるのだから、神様はいると思って、生きていった方が良いとは思わんか?」

「お前たち、夜、真っ暗な道を歩こうとしても、怖くて一歩も歩けんじゃろう。でも、明りがあると歩けるはずじゃ。その明りが目の前の金比羅神社と思うと良いのじゃ。心を苦しめる“悩みの種”があると、誰かに“悩みの種”を打ち明けて、心を楽にしたいと思うだろう。そういう時こそこの金比羅神社の神様におすがりに来て、お参りをすれば良いのじゃ。まあ、たまにでも良いから、嬉しい事楽しい事などがあった時に、金比羅神社にその報告のお参りをしてくれると、ここの神様も『そうか、そうか。良かったな。』とうれしがってくれるはずだから。」

「あと“棚からぼた餅”という、思っても見なかったら幸運を得るという、ことわざがあるが、そうそう起こり得る事柄ではないのが常で、目標を掲げて、それを達成にはそれ相応の苦労と努力と精進をしたとしても、中々、成し得る事は容易くはないが、神様という存在を認識し、苦労と努力と精進をすると、神様からのみ力を賜り、大事を成す事が出来るとワシはそう信じておる。だが、苦労と努力と精進が有ればこそ、神様からのご加護ご加勢も賜る事が出来る話しだが、苦労と努力と精進なしでは、神様からのご加護ご加勢は望めない。“種を蒔かないと収穫はない。”のと同じで、神様も“無い袖は振れない”という事も覚えていて欲しい。」

そんな禅問答をし終わり、すると、若者たちは金比羅神社にお参りをし始めた。

金比羅神社にお参りをしている若者たちを、白髭老人に変化身された金比羅の神様は、微笑まれながらご覧になられておられたとさ。

おしまい。

作者 ©鈴木孝夫 2019年 (許可なしに転載、複製することを禁じます)

この記事を書いた人

鈴木孝夫

金鯰物語の作者。塩川町出身、塩川町在住。発明家としての顔も持っている。