オリジナル【亡くなって、おったまげるな。】物語 その1

金比羅の神様が金鯰に乗って、岩代の国の塩川の街の巡行をしていると、街の川港に一隻の廻来船(かいらんせん)が着いた。

廻来船が着くと一人の男がやって来て、「早く廻来船の積み荷を下ろせ。さっさと取りかかれ。」と、その男が大声を張り上げて怒鳴っていたので、金比羅の神様は『怒鳴っている男は、船主じゃな。』と思われて、様子をしばらくの間ご覧になられていた。

水夫たちが廻来船の積み荷を降ろしていると、今度は「お前ら!グズグズするな!手間取りやがったら、手間賃差っ引くぞ!」と船主は水夫たちに、大声を張り上げて怒鳴り浴びせかけていた。

水夫たちが、廻来船からの積み荷を降ろし終えると、船主は懐から手間賃の入っている袋を取り出すと、「手間賃だ!」と言って、水夫たちの目の前の地面に手間賃の入っている袋を放り投げた。

そんな、横暴な振舞いをする船主なのに、水夫たちは誰一人として船主には文句を言えないでいた。

それは、水夫たちが病気や怪我をして働けない時に、船主から前借りをしていて借金がある手前、船主に水夫が文句などを言ったものならば、「借金している全額を、耳をそろえて返してから文句を言いやがれ。」と船主から言われてしまうので、水夫たちは誰一人として船主には文句など言えないでいた。

そんな横暴な振舞いを水夫たちにする船主に、『水夫たちに「ご苦労様。」と一言言葉を掛けて、労をねぎらってやれば良いものを、あの船主め!』と、金比羅の神様は顔をしかめておられた。

この水夫たちは、廻来船の運航中に何度も危険な目にあっていたので、機会を見ては金比羅神社に手を合わせて、船海安全のお参りをしていたが、そんな、金比羅神社に手を合わせてお参りをする水夫たちを見て、「神様なんかいるもんか? 無駄なことをしていやがる。」と、船主は言いながら鼻で笑って見ていた。

そんな様子をご覧になられていた金比羅の神様は、信仰心や水夫たちに感謝のかけらも全くない、傲慢な船主にお灸を据えたくなった。

数日後のある晩の事だが、船主が酒を呑みながら、日課にしている壺の中に貯め込んで隠しておいたお金を出して、嬉しそうにお金を数えていると、突然目の前に金鯰の上に乗った白髭の老人が現れたので、驚きより先に慌てて、船主は羽織っている着物で数えていたお金を隠しながら、「おまえは誰だ!」と声を荒げながら、着物で隠したお金が盗られないように必死になっていた。

「おまえこの前、神様なんかいるもんか?と言っておったようだが、ワシは金比羅神社の神じゃ!」と金比羅の神様が船主に言うと、船主は「金比羅神社の神様?」と言ってうろたえていた。

「おまえのお金を盗ったりせんから、安心せい!おまえに、ワシとこれから行って欲しい場所があって、現れたのじゃ!」と金比羅の神様が言い終わると、金比羅の神様は手を船主の体に触れながら「えい!」と念じて、船主の体から船主の魂を離脱させた。

すると魂の姿になった船主は、目の前にお金を着物で隠している、動かないでいるもう一人の自分がいるので、何が何だか分からず、動かない自分を見つめてしばし立ち尽くしていたが、よほどお金に執着があるのか、お金に触れようと手を伸ばしたりしていたが、お金がすり抜けてしまい、その後も何度もお金に触れようと手を伸ばしてみたが、お金がすり抜けてしまっていた。

「おい!船主!おまえの体から魂を離脱させ、魂という姿になったのだから、いくらやったところでお金はつかめん。諦めるのじゃ。ワシと行って欲しいところがあるので、ほれ!ワシの乗っている金鯰の上におまえも乗るが良い。」と、金比羅の神様が船主に言うと、「乗りたくないです。体に戻してください。後生ですから。」と、船主が言って手を合わせながらすがって来たので、「また、必ず体に魂を戻してやるから、心配するでない。」と金比羅の神様が言うと、船主はブツブツ言いながらも渋々と金鯰の上に乗った。

船主が金鯰の上に乗ると、「金鯰よ!飛んでおくれ、」と金比羅の神様が言われたので、金鯰は金比羅の神様と船主を乗せながら、空に向かって飛び始めた。

その2に続く

作者 ©鈴木孝夫 2019年 (許可なしに転載、複製することを禁じます)

この記事を書いた人

鈴木孝夫

金鯰物語の作者。塩川町出身、塩川町在住。発明家としての顔も持っている。