梅雨に入ったというのに雨が一向に降らない空梅雨が続き、毎日毎日お天道様がギラギラし川の水量も少なくなり、琵琶阿湖も川もひあがっているところも出て来ていた。
水があるところで泳いでみると鯰たちは煮上がってしまうくらい水温が凄く高く、鯰たちは自由に泳げないので、水温の比較的低い巣穴の中でじっとしていなくてはいけなくなってしまっていた。
金鯰も同様だったが、まずこの暑さを何とかしようと、お天道様にギラギラをなんとが和らいでくれるよう頼んでみたが、お天道様は「ギラギラは俺の仕事だから。」と断られてしまった。
次に夏将軍に涼しい風を吹かしてくれるよう頼んでみたが「すまんが、お天道様がギラギラしているから、俺は熱い風しか吹かせられない。」と断られてしまった。
それじゃと今度は、雲にお天道様のギラギラを遮ってくれるよう頼んでみたが「悪いが、俺は流れる雲だからお天道様のギラギラを遮られるのは一時だけしかできない。」と断られてしまった。
万策尽きた金鯰は、金比羅の神様におすがりに行くと、金比羅の神様はどこかに出掛けていられてお留守だった。
金鯰はこのままだと、お天道様のギラギラでひあがってしまうので、岩陰に逃げ込みどうしたものかと、あれこれ考え思案してみたが、良い考えが浮かばなかった。
そんな困っている金鯰の姿を見かねた雲が、「雷様だと、天道様のギラギラを遮り雨を降らす方なので、何とかしてくれるはずだ。だけど・・・、俺が雷様に近付くとゴロゴロという音とともに一瞬にして消されてしまうから、あとは自分で雷様を探し出してお願いをしてみてくれ。」と言うと、雲は関わるのが怖いらしく逃げるようにどこかに行ってしまった。
お天道様のギラギラする中を、あっちこっち雷様を探してみたが、どうしても見つからなかったので、再び金比羅の神様のところへおすがりに行ってみると、金比羅の神様は帰っておられたので、金比羅の神様に金鯰は泣きながら今までのいきさつをお話しした。
金鯰の話を金比羅の神様は聞きながら、金鯰に「留守にしていて悪かったの、よう頑張った。あとはわしに任せろ。」と言うと、金比羅の神様は懐から手鏡(念じると見たいと思うものを見れる手鏡)を出されて、手鏡に「えいい。」と念じられた。
手鏡で四方八方を見渡され雷様のいる場所がお分かりになられて、杖で方角を示され「わしを乗せい。」と言うと、金鯰の上に金比羅の神様はひょいと飛び乗られた。
杖で方角を示さた東の空の方向に金鯰は金比羅の神様をお乗せして、金比羅の神様の御力で川を泳いでいる如く大空を飛んで向かわれた。
雷様のいるところへ辿り着くと、何やら雷様は黒い雲の上に乗って下界を見ながらキョロキョロしていた。
金比羅の神様は「おい!」と雷様に声を掛けると、雷様は金比羅の神様の突然の来訪にびっくりして、「金比羅の神様、わざわざお越し下さりどうなされました?」と雷様が訊ねると、「実はのう、頼みごとがあって訪ねてきたのじゃ。」と金比羅の神様が言われた。
「何でしょうか? 何なりとご用のおもむきをお話し下さい。」と雷様が答えると、「雨を降らしてくれないが?」と金比羅の神様がお願いをされた。
「実は雨を降らせたくても、雨を降らせるひしゃくを誤って下界に下ろしてしまい、あちらこちら方々探し回っているのですが、見つからないので困っていたのです。」と雷様は申し訳そうに言ってきた。
それを聞いた金比羅の神様は、また懐から手鏡を出されて手鏡に「えいい。」と念じられ、手鏡で下界の四方八方見渡されて、杖で方角を示され「西に十里行った滝つぼの中に、ひしゃくが沈んでいる。」と金比羅の神様が言われた。
金鯰は金比羅の神様を乗せて雷様も追うようにしてその場所へ向かった。ひしゃくが沈んでいる滝つぼに着くと、上の滝からは水が流れていないにも関わらず、滝つぼには水が溢れんばかりに並々とあった。
やはり、滝つぼにはひしゃくが沈んでいるのは間違いなく、沈んでいるひしゃくから水が出ているから、滝つぼには水が溢れんばかりに並々とあるようだ。
滝つぼに沈んでいるひしゃくを取って来ようと、金鯰が滝つぼに潜り始めると、この滝つぼの主の大きな鯉が金鯰に体当たりをして来て、それからも何度も何度も体当たりをして来て、金鯰が潜るのを邪魔してきた。
そればかりか、鯉は沈んでいるひしゃくをくわえて必死に逃げ回っている。その様子をご覧になっていた金比羅の神様が、「そのひしゃくがないと、雷様が雨を降らせられなくて困っているから、そのひしゃくを返してくれないか?」とお願いをした。
鯉は「滝つぼが干上がって死んでしまうところを、このひしゃくから水が出て来て私を助けてくれたひしゃくなので、返したくない。」とかたくなに返そうとしない。
金比羅の神様は「ひしゃくを返してくれたらば、お前の望みを一つ叶えてやるから。」と言うと、鯉が「望みを叶えて下さる。」とつぶやき、しばし考えこんでいた鯉が「では、ひしゃくをお返ししますので、龍になって空を飛んでみたい。」と言ってひしゃくを返してきた。
金比羅の神様は「よし!お前の望みの龍になる“登竜門” (※1)を叶えてやろう。」と言うと、金比羅の神様はひしゃくを雷様に渡して、雷様にひしゃくから水を流して滝を作らせた。
鯉にその滝に登るように命じた。
鯉はその滝を登ると龍に変化し、龍に変化した鯉は喜び勇んで、大空を思う存分に飛んでいた。
しばらくすると戻って来て「飛んでいる時に下界を見ると、干ばつで苦しんで困っている者たちの有りようを見て、心が痛みその者たちを助けたくなり、雨を降らせるお手伝いをしたいので、私の上に雷様お乗り下さい。」と言って来た。
雷様は龍になった鯉の上に乗り、大急ぎで四方八方に飛び回って、ひしゃくで雨を降らせていたとさ。
おしまい。
※1:登竜門【中国の《後漢書》李膺(りよう)伝に,黄河の上流に竜門という激流があり,その下に多くのコイが集まり,ほとんどは急流を登れないが,もし登ったら竜になる,と伝える。転じて立身出世のための関門を意味する。 】
作者 ©鈴木孝夫 2019年 (許可なしに転載、複製することを禁じます)