金比羅の神様はそう言い終ると、船主に「天国と地獄を見せてやるから。」と言われた。そして、金鯰に「金鯰よ!滝を上昇しておくれ。」と言われた。
金鯰は金比羅の神様と船主を乗せながら上昇をし始めると、上の方から光が降り注いで来ていて、上昇し上がるほど明るさが増して来た。
流れ落ちて来ている滝の両側には、無数の洞窟が上の方まで無数にあって、滝を上昇して来た死者が上昇が止まった場所の洞窟の中に死者が入って行った。
金鯰が「金比羅の神様、死者によって上昇の高さがそれぞれ違う洞窟に入って行くのは、どうしてなんですか?ここは?」と聞いた。
「死者の生前の善業の多さによって、上昇の高さがそれぞれ違っておるから入る洞窟も違っており、ここは天国と言う領域じゃ。」と金比羅の神様が答えられ、「さて、この辺で良い。金鯰よ!上昇をやめい。」と金比羅の神様がおっしゃった。
金比羅の神様と船主が金鯰の上から降りて、止まった目の前の洞窟の中に金比羅の神様は船主を連立って歩いて入ってみた。
洞窟の中に入って金比羅の神様と船主が歩いて進んで行くと、とても明るいさわやかな風が吹いている、緑の平野の大地が広大に広がっていて、奥には山々が連なっていて、空を見ると吸い込まれそうな青色の空が広がっている、とても景色の良い場所に出た。
緑の平野の大地を金比羅の神様と船主が更に歩いて進んで行くと、大勢の笑い声と歌声が聞こえて来たので、行ってみると若い男たちが耕していて、耕したところに若い女たちが色とりどりの花を植えていていた。
その中の若い女の一人が、「あれま!日橋丸の船主さん。」と船主に声を掛けてきた。
声を掛けられた船主は、その若い女の人が見覚えのない方のようで、「どなたさんでしょうか?」と答えると、「私は饅頭屋の大女将だよ。」と若い女の人が言ってきた。
「この前、亡くなった饅頭屋の大女将?そんなに若くなかったはずなのに?」と、驚いたように船主が答えると、「亡くなった時は、しわくちゃの婆様だったんだけど、ここに来たら、不思議な事に若い頃の私に戻れたんだよ。」と、この若い女の人が嬉しそうに言って来た。
金比羅の神様が「ここでの暮らしはどうですか?」と尋ねると、「ここは寒くも暑くもないし、それに、ここにいる方々は皆さん親切で優しい方ばかりだし、毎日好きな事をしながら、幸せに暮らせています。」と、その若い女の人は笑顔で答えた。
「何よりですね。」と金比羅の神様が言って、更に「あなたは生前、貧乏でろくに食べ物を食べられないでいる人がいると、お金を取らず饅頭をたくさんの方々に食べさせていましたね。そうゆう善業を積んだから、亡くなってからここに来れたんですよ。」と、金比羅の神様は若い女の人に言われた。
船主に「では、戻るぞ。」と金比羅の神様が言って、この場所を後にされた。
作者 ©鈴木孝夫 2019年 (許可なしに転載、複製することを禁じます)