岩代の国の塩川という街に台風が近づいて来たある日のことだが、この街の船主の一人が金比羅神社に、まだ、帰還しない廻来船の無事に帰還を願うご祈願をしに来た。
船主は「どうか、どうか、船夫(船員)と廻来船をお守り下さい。」とすがりながら真剣にご祈願をして来た。
金比羅の神様は、船主の願いをお受け取りになられた。
金比羅の神様は金鯰に乗って、廻来船を探しに行ってみると、廻来船は台風の暴風を避けるように、大岩を盾にして隠れるようにして台風の暴風をしのいでいた。
台風は、そんな廻来船をあざ笑うかのように、大岩に隠れている廻来船に「ゴォーッ、ゴォーッ。」と、暴風を吹きつけて楽しんでいた。
金比羅の神様は見かねて、台風の近くまで行って、「台風よ!廻来船に、暴風を吹きつけるのをやめてくれないか?」と頼んだ。
台風は「金比羅の神様の頼みでも、お聞きする訳にはいきませんね。」と断ってきた。
金比羅の神様は台風に何度も頼んでも、台風は全く聞き入れてはくれなかった。
金比羅の神様は、一向に聞き入れてくれない台風に、どうしたものかと思案なされていたが、何かを思いつかれた様で、いったん金比羅の神様は金鯰に乗って街に戻られた。
街に戻られると、金比羅の神様は「風っ子たちよ、集まってくれ。」と呼び掛け始めると、風っ子たちが次々と集まってきた。
風っ子たちが「金比羅の神様、どうなさいました?」と尋ねると、「今からワシと一緒に行って欲しい。」と言われた。
風っ子たち「はい!わかりました。」と言ってくれたので、金比羅の神様は金鯰に乗って、風っ子たちを引き連れながら、再び台風の近くまで飛んで行った。
すると、台風は金鯰に乗っている金比羅の神様と風っ子たちに、「ゴォーッ、ゴォーッ。」と気味悪い音を立てながら、暴風を吹きつけて来たが、金比羅の神様の御力が働いているので、金鯰も金鯰に乗っている金比羅の神様も風っ子たちには暴風は避けて行ってしまっていた。
しかし、暴風は避けて行ってしまってはいるが、「ゴォーッ、ゴォーッ。」と気味悪い音を立てる台風の暴風には、風っ子たちは消沈してしまいブルブルと震え怖がっていた。
そんな怖がっている風っ子たちに、金比羅の神様は「ワシがついておる。御力を与えおるから、怖がることはない。」と強く励まして、金比羅の神様は杖を空に向けた。
台風の渦とは逆の回転を杖で回され始めると、「風っ子たちよ、ワシが回しておる杖の回転に合わせて、杖の上で飛んで回っておくれ。」と金比羅の神様が言うと、風っ子たちは次々と、金比羅の神様が回す杖の上で飛び回り始めた。
そして、金比羅の神様が「金鯰よ!台風の目の中に飛び込んでおくれ。」「風っ子たちよ、ワシについて参れ。」と言うと、金比羅の神様は金鯰に乗って、杖の上で飛び回っている風っ子たちと共に、台風の目に飛び込んで行った。
台風の目に飛び込むと、金比羅の神様の杖の上で飛び回っている風っ子たちに、「風っ子たちよ、もっと勢い良く飛び回れ。」と金比羅の神様は叫ばれて、金比羅の神様は杖の回転を更に早く回し始めた。
風っ子たちも杖の回転に合わせるように、飛び回っての回転が勢いを増していって、そして渦になった。
台風は自分の目の中で、自分の渦の回転と違う、風っ子たちの飛び回っている渦によって、自分の本体の渦の回転が弱まってきてしまった。
こうなると、台風は暴風を吹きかけられなくなり、「金比羅の神様、風っ子たちに飛び回るのをやめさせてください。お願いです。」と必死で助けを乞うてきた。
「台風よ!この場から去ることを約束するならば、風っ子たちに飛び回るのをやめさせよう。」と金比羅の神様が言うと、台風は「わかりました。お約束いたします。」と詫びてきた。
金比羅の神様は「風っ子たちよ!飛び回るのを止めい。」と風っ子たちに告げられ、風っ子たちは飛び回っての回転を止めた。
そして、台風は約束通りに直ぐに、すごすごと去って行ってしまったので、大岩に隠れて台風の暴風をしのいでいた廻来船は、舟行をすることが出来たので街に帰還を始めた。
金比羅の神様は、台風に風っ子たちを挑みかからせて台風を追い払い、金比羅の神様は「よくやった。あっぱれじゃ。」と言って、風っ子たちの武功を称えていたとさ。
おしまい。
作者 ©鈴木孝夫 2019年 (許可なしに転載、複製することを禁じます)